とうきょうエコ・コレクション

H26年度インタビュー第2回

理科を楽しむ。科学する目を培う。そこから生まれる地球環境問題への理解

【工学院大学科学教育センターについて】

工学院大学は、建学以来、工学系大学として理科教育・研究活動に専念し今年で127年目を迎えた。この間、理科教育に関わるノウハウを蓄積するとともに、大学が有する諸機能を利・活用して種々の事業を展開してきた。近年「若者の理科離れ」や「理科教育の危機」が指摘されていることから、工学院大学では新たな理科教育面での社会貢献事業をより一層強化するために、平成20年度に「理科教育センター」(平成25年より科学教育センター)を設置した。当センターでは、理数科系に力を入れている高等学校や中学校を支援する「中・高大院連携事業」、スタート以来21回目を数える「わくわくサイエンス祭」(発足当時は「大学の先生と楽しむ理科教室」)、“理科大好き先生”を養成する「スーパー・サイエンス・ティーチャー養成講座」(SST養成講座)を中心に各種の科学教育支援事業を展開している。

21年前に試みた、子供たちに理科を好きになってもらうための工学院大学「大学の先生と楽しむ理科教室」。当初は、参加する教職員、手伝う学生たちはすべてボランティア、実験材料費もポケットマネーだったという。今ではその成功を端緒に科学教育面における社会貢献を主導する「科学教育センター」では11プロジェクトを数える事業を発展している。その先導的指導者である矢ケ﨑隆義センター長は、今年、この科学教育面における社会貢献活動に多数の大学生・大学院生が支援参加することにより、多くの自修効果を得る新しい教育システムとすることが高く評価され「文部科学大臣賞」を受賞している。氏は「『理科教室』などの事業が地域への繋がりを生み出すとともに学生たちの成長の場にもなっています」という。理科・科学教育とエネルギー・環境問題、地球温暖化防止との関連についても聞いてみた。

理科教育に自信はあるけれど、理科好きは作れない

――先生方が始められた「大学の先生と楽しむ理科教室」(現在は「わくわくサイエンス祭・科学教室」)は、毎年8,000名程度の小・中・高校生が参加する一大イベントになっているとお聞きしました。今年で21回目だそうですが、どのようなきっかけがあったのでしょう。


民間活動インタビュー 平成26年度第2回

矢ケ﨑 隆義さん


矢ケ﨑 「理科離れ」「理科嫌い」の子供たちが増えるという、我々工学部の教員にとってはショッキングな時期が25年ぐらい前にあったのです。確かに工学部に学ぼうとする高校生の数が急激に減って、また、入ってきた高校生も本当にこの子たちは工学を学びたくて入学したのだろうか、という疑問が生じました。工学部を有するどこの大学でも同様の問題を抱えていました。そこで、我々ができることは何か、侃侃諤諤の議論をしました。その中で、学内に技術的資材はたくさんある、で、人的資材もある。

そこでこれを利用して、1、2年かけて小・中学校の生徒さんに専門性を活かして理科を教えるようなことができればという提案が出ました。その中で、理科教育に関してだったら絶対に自信があるという教員が何人も手をあげました。いろいろな議論の中で、いや、教えるのではなくて、まず、理科嫌い、理科離れなんだから、理科好きを増やすためのきっかけを作ろうじゃないか、ということになった。そうすると手をあげてくれた50人ぐらいの若手が、みんな手を下げちゃったんです。


――理科を教えることはできるけど、理科好きは作れない・・・。


矢ケ﨑 そうです。理科教育といっても、みんな難しいことは得意なのです。逆に小・中学生に実験を教えることは得意ではない。そこで、自分たちだけでは無理だから、学生に手伝ってもらおうということになりました。私たちより若いし子供に近いだろうと。話をすると、いやー、先生が困っているんだったら手伝いますけど、っていう学生が何人かいました。それで、2年ぐらいの助走期間を作って、学内で少しずつ準備を始めました。ところが、教員が提案するテーマや内容はことごとく学生に否定されることが続きました。

「先生、小学生にはそんなのわからないでしょ」

――どうしてでしょう。


矢ケ崎 先生、そんなのつまらない。それにわかりっこないですよって。実は私もそう言われた一人でした。「これやればいいじゃないか」と言うと、先生、それ、先生は授業で「わかったか」って聞くからみんなわからなくても、「はい」って言っているんですよ。で、「えっ、何、おまえたちそうだったのか。」「いや、そうですよ、小学生だったら、そんなのもっとわからないでしょ。だって、これ知らない、これも知らない。先生そんなことも知らないんですか。」そういう感じでした。

そこで、今度は大学の教員がもう1回集まりました。子供を持つ教員を集めたのです。それも小学生のいる教員を。その小学生のいる教員は、やっぱりアイデアの切り口が違うのです。その教員を集めて、小学生に教えたいんだって話をしました。すると全員、嫌だっていう。みなさんそのぐらい難しいことだと思っていたのです。ただ、それでも説得していく中で、最終的に15人ぐらいの教員が残りました。


それで、これらの教員と学生たちで半年間ぐらいかかっていろいろ作っていきました。子供の目に触れて面白そうなもの、子供が興味を持ったときにその理屈を説明することができるもの。かなり砕けたものが出てきました。

第1回工学院大学の理科教室、小学生、中学生、来てください。本当に来るかどうか、これはもう本当に私たちにとって、賭けに近かったんです。


――ドキドキですね。


矢ケ崎 ドキドキです。でも、あとになってわかったことですが、そのドキドキ感が、支援参加してくれた学生諸君を育てるのです。半年間ぐらいの準備期間を経て、現場で子供たちと話をし、実験して理解してもらおうと学生たちは緊張します。こうした努力が学生を成長させてくれるのです。

準備した実験材料が足りなくなった

――場所は八王子キャンパスですね。第1回の結果はどうでしたか?


民間活動インタビュー 平成26年度第2回

第21回 科学教室

矢ケ﨑 今でも忘れません。私の担当する演示テーマでは、前の晩、手伝ってくれる学生と一緒に学内に泊まり込みました。9時から始めることになっていましたが、関係者みんなが朝5時ごろから集まってそわそわしています。8時頃になって「先生、まだ誰も来ません」って報告があります。ああ、やっぱりだめかと思い始めたんです。第1回は50人から100人ぐらいを予定していました。とりあえずやってみよう、誰も来なくてもいいから。それぐらいの覚悟はしていたのですが、やはり心配でしたね。


ところが朝8時45分ごろでしょうか、会場のいたるところに子供たちがうわっと出てきたんです。それからが大変です。体育館に集まった子供たちを引率して、50以上のテーマ毎にそれぞれの実験室に連れていく。集まったのは1,200人以上。すると、実験材料が足りなくなって、八王子市内の文房具店では間に合わず、立川まで買いに行ってもらいました。そうこうしているうちに、文房具屋さんなどから問い合わせが来たり、一般の方から大学の中で何事が起こっているのかというようなことまで、大学に問い合わせが来ました。

地域との交流が劇的に変化した

矢ケ崎 実はそれ以前に市内でアンケートをとったことがあるのです。「工学院大学をご存知ですか、どう思いますか」というようなことです。すると、知らない。よくわからない。白い建物から学生がぞろぞろ出てきて不気味な存在、のような反応だったのです。

ところが、第2回の理科教室開催以降、明らかに周辺の住民の方々の私達の大学を見る目が変わってきました。来年はまたやるのって聞いてくる人が出始めました。それが子供からではなくて親から出始めた。うちの学生がいろんなところ、例えばスーパーのレジや学生が間借りしているおじさんおばさんたちに「君は理科教室手伝っているの?」と聞かれる、そういうことが起こり始めたんです。それからもう一つ、劇的な変化がありました。私どもの大学の中には桜がたくさんあるんです。お花見のころ、どんなに門を開いていても、市民の方は入ってこなかった。それが、守衛さんのところに、あの桜の下でお花見がしたい。いやいや、だめだめ、授業やっているときはだめ、日曜日だったらいいですよ。ということで、家族連れが入ってくるようになってきたんです。


――工学院大学がまちになじむというか、住民の方に身近なものになってきたんですね。

理科教室に参加した子が同じ専門領域の教員に

矢ケ﨑 「理科教室」で昔こんなことがあったのです。プラスチックペンダントを作る実験は子供たちに人気があります。楽しいですから。ペンダントの原料は、お米の粒みたいな高分子材料の粒でできています。それをお湯で溶かして表面を軟らかくしてくっつける実験です。高分子と高分子が絡むわけです。私が1回説明して見本を見せ、後は学生がやるのです。で、やっていたら後ろから利発そうな子、本当に利発な子だったんだけど、手があがりました。「先生、何でくっつくの」って質問されたんです。「おおっ」と思ったのですが、見たら小さな子で小学校の低学年だなと思ったので思わず、「うん、君が大きくなったら教えてあげるね」って言ってしまったんです。そうしたら何と言われたと思います、私。「おじさん、知らないんだ」って。周りにいる大学生、大学院生、それから、お父さん、お母さん、ほかの学校の先生とかたくさんいらっしゃったんですが、もう、しーんとして、で、次の言葉が出なかったんです。


本当に世の中って狭いなって思ったのですが、実はその子がある大学の私とほどんど同じ専門領域の助手になっているのです。それがわかったのは学会での研究発表で、その方が壇上にいたのです。それで檀上から私をやたら見ている。終わって会場を出たら飛んでくるんです。で、「先生、先生」って言うんです。「先生、私のこと覚えています?」っていう話になって。


――そんなことが本当にあったのですね。


民間活動インタビュー 平成26年度第2回

科学教室の実験風景

矢ケ﨑 いやあ、だって、それ言われるまで、わからないですよ。私、小学校のときに・・・だったっていう話。ただこれは偶然というか特殊な例ではありますが、理科教室を長期間続けてきたうれしいエピソードの一つですね。本当に驚きました。






燃料電池機関車に乗って「環境」と「システム」を学ぶ

矢ケ﨑 私どもでは各地の自治体や教育委員会からの要請に基づいて「出張科学教室」を実施しています。毎回教職員数十名、学生・大学院生100~200名を派遣します。今年諏訪市では燃料電池機関車を走らせました。「地球にやさしい燃料電池機関車に乗って環境問題を考えよう」というタイトルです。学生には、ただ単に演示するのではなくて、何で燃料電池がエネルギーとして使え、その電車を動かすのか、そこを一般の市民の皆さんに、また小学生にもわかってもらえるように説明しなさいと話をしています。ですから学生は、自分の学んでいる専門科目だけでなく、その周りの学問も含めて、なぜ燃料電池機関車が走るのかということを第三者に説明が出来るように学ぶわけです。電気回路工学はここ、電池の仕組みはここ、というふうに別々の科目で学んでいるのですが、電車として走るためには全部学んで、理解していないと説明できないんですね。実際に電車の軌道も作らせる。車輪が空回りしちゃうのは勾配が関係しています。それも計算させています。そういう学修をする。ですから、これはシステムなんです。そのシステムを構築するところに、彼らはものすごく大事なものを学ぶところがたくさんあるんです。環境とか地球温暖化といろいろ言いますが、じつはこのシステムで考えていくことが非常に大切になってくるのです。

理科や科学への興味が環境問題の理解につながる

――理科教室、いまは科学教室となっていますが、お話のあった燃料電池機関車以外にも「お天気コーナー」「環境クイズ」「LEDで遊ぼう ! 」「電気エネルギーをためるには」など、環境やエネルギーに関するテーマも数多く扱われています。


矢ケ﨑 そうですね。環境やエネルギー問題に限りませんが、やはり身近な生活に関するさまざまな科学的な事象を、実験を通した手触りや「見る」「聞こえる」など五感を使って理解することが、子供たちを「理科嫌い」にさせないことに通じるのです。


それから、実験で出るゴミの分別収集ですね。学生からの提案で、燃える物、燃えない物、再利用できる物、できない物などの分別を一緒に行動することで、子供たちに学んでもらっています。ですから、地球温暖化防止は大変重要なテーマですが、そう大上段に構えなくても、理科や科学に興味をもってもらうことを通じて、環境問題やひいては地球温暖化防止へのまなざし、理解が深まっていくのではないでしょうか。


民間活動インタビュー 平成26年度第2回

科学教室にはたくさんの子供達が来場します

民間活動インタビュー 平成26年度第2回

科学教室の様子


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