過去インタビュー詳細 平成27年度vol3

H27年度インタビュー第3回

全公立小学校45校の5、6年生全員が参加する「カーボンマイナスこどもアクション」

●翠田 文(みすた あや)さん

 江東区環境清掃部 温暖化対策課 環境推進担当係長

●荒川 晶(あらかわ あき)さん

 江東区環境清掃部 温暖化対策課 環境調整係主事

江東区内には公立小学校が45校あります。そのすべての小学校5,6年生を対象に、環境月間である6月の1か月間、環境活動に取り組んでもらうのが「カーボンマイナスこどもアクション」。こどもたちに自分と家族の「環境に配慮した活動」を毎日「記録シート」に記入してもらい、CO2削減量に換算して自己評価するもの。毎年、学校ごとの参加率やCO2削減量を集計し、優秀な成績の上位校を表彰します。その表彰式はこどもたちの熱気とパワーにあふれています。今年で8年目を迎えますが、4年前からはより理解を深めてもらうために、区職員自らが作ったパワーポイントを使って「出前授業」も実施。これらの事業の準備から表彰式までを担っている荒川さんと翠田さんに話を伺いました。

――「カーボンマイナスこどもアクション」の「記録シート」はどんな内容なのでしょう。

民間活動インタビュー 平成27年度第3回

荒川 晶さん

荒川 「記録シート」は、環境への取り組みを、自分でできることと家族で取り組むことに分けてある表で、1か月間、できた項目に毎日丸を付けて記録します。自分でできることの欄には、例えば、「誰もいない部屋の電気を消す」「使わない家電のコンセントは抜く」などで、家族の欄は「冷蔵庫の扉はすぐ閉める」「家族とあいだをあけずお風呂に入る」など両方合わせて15項目です。項目ごとにCO2削減量が示してあり、最後に集計してもらいます。

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翠田 文さん

翠田 「記録シート」は6月の環境月間にやってもらうのですが、もっと温暖化対策について理解してもらおうと始めたのが出前授業です。「記録シート」の取組みを4月の校長会でお願いしておりますが、その折に出前授業の希望も募っています。今年は4校、5回(10クラス)やりました。

ですから、全校の「記録シート」の提出と、まだ数は少ないですが「出前授業」が一つのセットになっているのが「カーボンマイナスこどもアクション」事業です。

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記録シート(クリックで拡大)

――出前授業の先生役は?

荒川 私たちです。授業に使うパワーポイントも自作しています。ただ、最初の1年間は区の職員だけでやっていましたが、企業の環境部門の方と一緒に共同でやれると面白いんじゃないか、ということで一昨年度から始めています。前半は私どもの授業、後半が企業の方に実験などをしてもらいます。

翠田 一昨年度は日産自動車の電気自動車で体験学習。二酸化炭素を出さない自動車がどうやって動くか、充電の仕方を教えてもらったり、校庭で乗ったりしました。昨年度と今年度は東京ガスです。燃料電池のキットを児童2人1組で使って、燃料の水素を入れて電気をつけたり、電子オルゴールのメロディを聞いて発電していることを確認する実験です。やはりこどもたちはただ話を聞くだけでなく、体験学習や実験があるとそれだけ興味を持ってくれます。

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出前授業の様子

――パワーポイントでの授業はどのように進めているのでしょう。

荒川 「家の中のエネルギーを探してみよう」「家でつかうエネルギーの割合は?」「地球温暖化はどうして起こる?」などの画面を見せながら考えてもらいます。面白いことがありました。じつは東京都23区のCO2排出量を多い順番に並べた棒グラフをつくって、区名だけ隠しておいて「江東区は何番目でしょう?」って問題を出したのです。「2番目です」と答えを言うと、最初は準優勝みたいな感じで、1回みんな「ワーッ!」と騒ぐんです。そこで「じゃあ、これうれしい人」っていうと誰も手をあげませんよね。こんどは「えー」とか声が出る。やっぱり不名誉なことだって気が付くんです。

翠田 こどもたちは江東区のCO2排出量の多さに驚きますね。去年が多い方から3番目で、今年は2番目になってしまいました。港区がダントツで江東区と大田区が2番目と3番目を争っているのです。区全体の排出量ですから、人口や工場数など分野別は勘案されていません。でもこれをきっかけに「どうしたらいいんだろう?」「頑張らなくちゃ」と考え始めてもらえます。

――この出前授業は6月のアクション期間の前に?

荒川 本当は意識づけのために6月までにしたいのですが、日程調整の関係で、5月から始めて6月に入ることもあります。まず、学校に行って授業の内容を先生たちと事前打合せして、要望もお聞きします。帰ってきて内容を直して当日を迎える、という感じです。

翠田 今年はある校長先生のアイデアで、せっかく「記録シート」を配っているのだから、出前授業の中でも扱った方が良いということで、「記録シート」を拡大コピーして貼りだしてみんなで読み上げました。

荒川 「記録シート」はこれまでは配るだけでしたが、期間中の授業では「「記録シート」もってきてね」とか「みんなやってますか?」って言葉をかけることもできますね。

――では、学校との調整や企業との打ち合わせは5~6月はピークですね。

翠田 普段は机に向かって仕事をしていますが、大勢のこどもたちの前で話をするので6月は結構ヘロヘロになってしまいます。

翠田 ホント、6月は疲れますね。でもそのあと7月には記録シートが全部戻ってきて、7月と8月は集計期間。小学生なので計算が間違っていることもあります。そこで、「記録シート」の丸印だけを信じてもう一度計算し直します。今年の参加人数は6,588人ですから、その枚数だけ手計算です。この数字が表彰校につながりますからとても重要です。続けて表彰式の準備に入るわけです。

カーボンマイナスこどもアクションの実施状況

年度 対象者数 参加人数 参加率 CO2総削減量 一人当たり
削減量
H20 2,840人 2,095人 73.8 % 52 t 24.8 kg
H21 5,969人 4,113人 68.9 % 89 t 21.7 kg
H22 6,316人 5,046人 79.9 % 113 t 22.4 kg
H23 6.421人 5,213人 81.2 % 98 t 18.7 kg
H24 6,569人 6.038人 91.9 % 148 t 24.6 kg
H25 6,759人 6,134人 90.8 % 319 t 52.0 kg
H26 6,887人 6,557人 95.2 % 170 t 25.9 kg
H27 7,058人 6,588人 93.3 % 138 t 20.9 kg
累 計 41,784人 1,127 t

※平成25年度は従来の「児童のみの取組」に「家族との取り組み」項目が追加されたため、一人当たりのCO2削減量が多くなっている。

――「記録シート」の提出は区内の公立小学校全部が参加しているのですね。江東区は非常に積極的に環境問題に取り組んでいるようです。

荒川 はい。江東区は歴史的に公害対策を抱えていましたから。昔「東京ごみ戦争」ってありましたね。ですから、ごみ処理とか緑化など、環境問題には他の区にはない敏感さを感じます。

*東京ごみ戦争:1950年代後半から1970年代にかけて発生した、東京都における廃棄物(ごみ)の処理・処分に関する紛争(ごみ問題)のこと。1971年、都知事が「ごみ戦争」と宣言。東京都内の処理された、または未処理のごみを埋め立てる最終処分場を長年抱えていたのが江東区。同区には他の区からも未処理のごみや焼却灰などを積載した収集車やダンプカーなどが入り、1971年には特別区で排出されるごみの7割が江東区に運ばれ、毎日5,000台以上の収集車などが区内を走り、深刻な問題となっていました。時を経て、1989年には21万トン以上あった江東区の取り扱いごみ量は、2014年には9万7千トンと半分以下に減っています。

翠田 江東区は再生可能エネルギーにも力を入れています。湾岸の若洲公園というところに区の施設として大型の風力発電設備があります。出前授業の打ち合わせの折、先生方から4年生の社会科見学で風力発電を見学したから、その話題も出してくださいとか教えてくれます。

それから、平成27年3月には横十間川親水公園のある水門橋にマイクロ水力発電設備を設置しました。23区初の取組みですが環境学習施設として活用したり、「水彩都市・江東」のシンボルとして新たな観光資源にするためですが、じつはその表示板のデザインをしたのが荒川さんなんですよ。

――装置メーカーと相談して?

荒川 水滴の形にしたデザインを業者さんに「これどうでしょうか」と提案しました。

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横十間川親水公園 水門橋のマイクロ水力発電設備

――こどもアクション事業では協賛金を募っていると聞きました。どのように集めて、それをどう使っているのでしょうか。

荒川 はい。今年は28社からいただきました。4月、5月で区の商工会議所と産業連盟の総会時に周知します。この事業の説明と協賛申込書を配布していただいています。一口5,000円で、集まったお金は図書券に替えて参加賞として全校にお配りします。

翠田 ですから、表彰式の時には協賛企業の方々に壇上に上がってもらってこどもたちにも紹介しています。

――11月9日に行われた表彰式を拝見しましたが、すごい盛り上がりで驚きました。この表彰のランキングはどのように?

荒川 最優秀賞が1校、優秀賞が4校、努力賞が5校で、上位10校をさきほどの集計結果で決めるのです。メインは参加率で、あとは1人当たりのCO2削減量の順番です。参加率というのは児童数に対する記録シートの提出割合です。事業を始めた頃は、参加率が70%ぐらいで、ほぼ順位も決まってくるのですが、この4年間は90%を超えています。今年は93.3%でしたから、上位校はほぼ100%になるので、参加率では差がつかなくなっています。

――表彰式では、小学校同士のライバル心も感じましたが…。

荒川 それはもうすごくて、表彰式の入り口に各学校の座席案内を貼りだしてあるのですが、受付にいるとこどもたちが通るたびに「おっ、〇〇小が来てるぞ!」とか「〇〇小が来てない」とか、結構な騒ぎです。それまで受賞校は教えていないですからね。

翠田 私たちがとある小学校に出張授業に行ったときも「〇〇小には出前授業に行くのか、行くのか?」って聞いてくる。小学校同士でライバル意識があるようですね。

荒川 CO2排出削減というテーマで競い合っているわけですから、むしろもっと戦ってもらいたいくらい。

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表彰式の様子

――表彰式は会場も「ティアラこうとう」という大ホールで、区長さんも参加する一大イベントという感じでした。運営にもご苦労があるでしょうね。

翠田 まずは表彰式の日程調整が難しいですね。小学校の行事もいろいろありますし、地区の運動会と重なったりして。過去の反省も踏まえ、今年度の日程は前年度に教育委員会と調整しました。それとバスの手配です。

――そういえば会場の前には数十台バスがずらっと並んでいました…。

荒川 表彰する10校にバスが迎えに行って、児童を乗せて会場に来て、式が終わったら児童を集めて、また学校に送り届けるのです。小遠足のバス手配のようなものですね。

翠田 5、6年生で40名ぐらいの学校もあれば120名を超えるところもありますから。

それに、時間通り送り届けないといけない。保護者から、塾や習い事の時間に間に合わせるようにという要望もあります。

荒川 表彰のための集計や式の準備など苦労はありますが、この事業は区民の皆さんにも親しんでもらっていますし、楽しみながら仕事をしています。今後ももっと盛り上げていきたいと思っています。

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