電力調達の目的設定

「電力調達」は政策上の目的を達成するための手段の一つです。電気や再エネの価値を理解し、電力の調達によって実現できる目的を把握しましょう。

「電力調達」の目的

「電力調達」の目的について、自治体の先行事例も参考にしながら、4つの分類に別けて例示します。記載の目的以外にも、電気自体の価値や再エネの特徴によって実現できる目的があるかもしれません。電力調達の元となる計画や戦略、または民間事業者や他自治体との連携協定の目的に合致した調達内容の実現を目指しましょう。

【神奈川県】リバースオークションによる簡易で安価な再エネ調達の実現

神奈川県は、再生可能エネルギー電力の利用促進を目的に、株式会社エナーバンクとの連携協定を締結し、この協定に基づく取組として「リバースオークション(せり下げ方式の入札)」により、再エネ電力を簡単に、安く調達できる仕組みである「かながわ再エネオークション」を開始し、県内企業や自治体等に利用を呼びかけている。

リバースオークションでは、希望する再エネ比率や過去の電力使用量の実績などを入力するだけで、個別の小売電気事業者への見積りを徴取する必要がなく、調達者にとって手続きを合理化できる(詳細はこちら)。

環境省も同社のオークションサービスを活用し、少額随意契約を行っていた小規模施設について現行契約よりも安価に再エネ100%電力の調達を実現している。

【東京都】小売事業者との電力需給契約による再エネ100%電力調達の実現

東京都は、2019年5月、世界の大都市の責務として平均気温の上昇を「1.5℃」に抑えることを追求し、2050年までにCO2排出実質ゼロに貢献する「ゼロエミッション東京」を実現することを宣言し、2019年12月、実現に向けビジョンと具体的な取組、ロードマップをまとめた「ゼロエミッション東京戦略」を策定した。また「RE100」の理念に賛同し、再エネを活用し、都庁舎で使用する電力からCO2排出量をゼロとする、「都庁舎版RE100」を推進している。

東京都庁舎(第一本庁舎、第二本庁舎及び都議会議事堂で構成)では、約3,600万kWh/年(第一及び第二本庁舎の2か所で受電(第一本庁舎:約3,000万kWh/年、第二本庁舎:約600万kWh))を受電しており、令和元年8月より、第一本庁舎で受電する電力から再エネ100%に切り替えている。切替えにあたり、総合評価一般競争入札(単価契約)を実施し、価格と価格以外の要素(再エネ電気に関する要素)とを総合的に評価し、落札者を決定した。

一方、第二本庁舎は、ガスコージェネレーションで発電した電力を、地域配管トンネル内に敷設した専用の送電線を通じて供給を受けている。これは、災害発生時も機能を止められない都庁舎のBCP(事業継続計画)にも貢献しており、電力供給の多様化を実現している。

 

【世田谷区】電源立地自治体からの再エネ調達による地域間交流の促進

 

世田谷区環境基本計画では、エネルギーの地産地消を掲げ再エネ設備の導入を推進している。一方で、都内最大の住宅都市である同区は、太陽光発電設備が再エネ活用の中心となるが、太陽光発電に適した屋根には限りがあり、大規模な地産エネルギーの開発が困難となります。そこで、エネルギー資源が豊富な自治体との連携により、区内での再エネの利用拡大をつなげる取組みを展開。さらに、地域間での再エネ電気の活用を契機に地域交流を深め、都市と地方との持続可能な地域づくりを目指している。

2017年には、長野県の水力発電所からの電気を区立の保育園や児童館などへ供給開始。また2016年に群馬県川場村、2018年に青森県弘前市と自然エネルギー活用に関する連携協定を締結し、これにより調達した木質バイオマス(川場村)や「雪国対応型メガソーラー」(弘前市)の再エネ電気の購入を希望する区民を公募。購入した区民を対象に発電所の見学ツアーなどの交流促進も実施された。

なお世田谷区も、「RE100」の取組に賛同しており、区民・事業者とともに、2050年までの「せたがや版RE100」の実現を目指し取り組みを行っている。

世田谷区「弘前市との電力連携に関する協定の締結及び購入者募集について」

世田谷区 環境政策部エネルギー施策推進課

令和2年度 自然エネルギー活用による自治体間ネットワーク会議資料(令和2年9月)

【市原市】民間事業者との災害連系協定による非常時の電源確保の実現

千葉県市原市では、令和元年房総半島台風で、市内の全世帯の半数に及ぶ最大約66,800戸で停電が発生し、復旧まで最長で2週間の期間を要したが、日産自動車㈱がいち早く電気自動車(EV)を提供したことにより、停電復旧までの間、福祉施設や医療機関などに電力供給を実施することができた。このように、電気自動車(EV)は非常用電源として活用することができることから、災害時に避難所や福祉施設に配置することで、施設の円滑な運営を行うことが可能となる。

 そこで令和2年6月、同市は日産自動車㈱と「電気自動車からの電力供給に関する災害連携協定」を締結し、事業者の支援を受けることでEVを活用した電力供給体制を整備し、さらなる安全・安心なまちづくりに取り組んでいる。

市原市HP

日産自動車グループと「電気自動車からの電力供給に関する災害連携協定」を締結しました